Label: Infinite Expanse
Format: Cassette Tape
良いです!ロンドンを拠点とするミュージシャンLuke Cowanの新作は、前作『Six Places』でも魅せた、残響を活かした空間的なアンサンブルはそのままに、即興的な性質を加えた事で偶発性や独自の音のテクスチャーを獲得。
今作を制作するにあって用いられた手法が興味深かったので公式インフォ載せておきます↓
『SPRiNG!』の幕開けを飾る「Walworth Road」は、2025年2月のある一回のセッションで作曲された。南ロンドンのチャリティショップで手に入れたサンザ(親指ピアノ)による、手探りの即興演奏がその出発点となっている。この偶然の始まりから、ある制作手法が導き出された。続く数日間、カウアンは一定のシステムに従って一連の楽曲を制作した。すべての音楽は即興で、調性はF♯リディアンスケールに統一され、各トラックは一回のセッションで録音された。さらに、以前に録音された音を聴かずに重ね録りを行う「ブラインド・オーバーダビング」の手法がとられた。
その結果、独特の論理が生まれた。サンザ、ピアノ、クラリネット、ダルシマー、ギター、ハーモニウムといった楽器群は、互いに直接的な調整を行うことなく演奏され、意図的な設計ではなく偶然によって重なり合う。ハーモニーは偶発的に浮かび上がり、リズムはずれながらもやがて噛み合い、音の質感(テクスチャー)は上下関係なく積み重なっていく。鍵盤の黒鍵のみを使って作られたある旋律が作品全体を貫き、これほど単純なフレーズが、作品の長さにわたってどれだけ持続性を保てるかを試している。
やがて、そのシステムは維持されなくなる。制作が進むにつれ、カウアンは素材を外へと広げ、録音された音源に対して直感的に反応してもらうべく、数人のコラボレーターを招き入れた。ドラム、アップライトベース、ヴィブラフォン、トランペット、サックスによる彼らの演奏は、楽曲の内部構造を完全には把握しないまま行われ、編集もほとんど加えられていない。当初は孤独な試みだったものが次第に集団的な営みへと変化し、それに伴って作者のあり方も「ルーク・カウアン&フレンズ」へと変容していった。
素材を生み出すために設けられたルールは、徐々に曲げられ、やがて放棄されていく。『SPRiNG!』は、そのタイトルの由来である「春」という季節のあり方を反映している。すなわち、制約から増殖へと向かう動きである。『Six Places』が音を積み重ねることで架空の地理を描き出していたのに対し、本作は「偶然性」の中に形式を見出している。それは、独立して生み出された要素同士の重なりや中断、そして部分的な整合性の中に宿る形式である。本作が提示するのは、完結した解決ではなく、絶えず変化し続ける音楽の姿だ。それは「生成」の途上にあり、次に何が訪れるのかを模索しながら、おずおずと手を伸ばしているような音楽なのである。